“課題は解くものではない!” エンジニアが新規事業創造本部に2年間出向して見えたこと

“課題は解くものではない”

これが、ソフト開発や、IoTシステム設計や、機械学習の研究など、エンジニアや研究者としてバリバリ技術どっぷりなキャリアを積んできた私が、新規事業創造本部に2年の出向をして気づいたことです。

もう少し正確にいうと “課題は解くものではなく形成するもの” ということです。これは私の師匠からの「険しそうな山があったので頑張って登ってみました、みたいな研究テーマはダメ」という言葉にも似ていて、思考が素早くて実行能力の高い優秀な人材ほどハマりがちな罠です。


2017年の3月、私はお客様のデータを分析する日々を過ごしていて、次年度はどんな手法を適用しようかなどと無邪気に考えていた所に2年間の出向が伝えられました。まぁまぁ突然でした。

しかも技術系の部署ではなく新規事業創造本部、しかも新設の部署、しかも京都じゃなく東京、なんかもう環境が変わりまくりです。

異動先では事業実現するための技術アプローチを設計するという技術者らしい役割を与えられました。しかし、ゼロから事業を作っていく段階なので、ある程度アイデアが形になるまでは手を動かす仕事はお預け。私が生み出すものは商品でも技術プロトでもなく多産多死のアイデアとパワポ。チームメンバと「こんな事業はどうだ」「ここにチャンスがあるのでは!?」と議論する日々でした。

外部コンサルに論破されたり、外部コンサルを論破したりするうちに、pptをキレイに作る方法が身につき、従来以上にショートカットキーを使いこなすようにもなりました。何をやっているんだ自分はと思ったこともあります。


大きな気づきの機会となったのはCTOとの初ディスカッションです。チームで考え抜いた渾身の事業仮説プレゼンに対して、CTOからのコメントはシンプルな3つのクエスチョンのみでした。

“顧客は誰?価値は何?競合にどう勝つ?これをちゃんと示せ”

ああ、なんかもう、序盤からズレてたんだな。。。そんな気持ちになりました。自分でもビックリするのは、新規事業を考えているうちに3つのシンプルかつ最重要なクエスチョンを見失うことです。これは注意していてもいつの間にかやってしまうというタチの悪いものです。

どう儲ける?自社にできる?差別化は?と考えていると、知らず知らずのうちにHowにフォーカスしてしまい、解決すべき課題の特定や課題の具体化が未完のままHowの発想ばかり加速します。

この罠にハマりやすい大きな理由としてHowを考えることは夢が広がるようで楽しく心地よいことが挙げられます、だから本当にタチが悪い。そして、完成した美しい事業ストーリーを、Howを考える快感の外側から見たときに「で、これって人々が最も求めるものなの?ただの自分が一番やりたいことじゃないの?」となってしまうのです。


よくよく考えると新規事業創造だけでなく研究や開発でも同様です。別のシーンで次のような経験をしました。

学会聴講中にアイデアを閃き、意気揚々と技術部署の後輩に話を持ちかけ、その技術検証に乗り出そうとしたときです。決裁者の言葉はこうでした

“技術のImproveがあるのは認める、ただし顧客にとってのImproveが見えない”

またやってしまった、、、orz そんな気持ちでした。

まだ誰もやってない、まだ解決されていない、そんな問題を解けば役に立つだろうし論文にもなるだろう、高度なカッコいい手法で解決してやる。そんな考えが私の中にあったのです。師匠からの「険しそうな山があったので頑張って登ってみました、みたいな研究テーマはダメ」という忠告の通りでした。


このような経験を通して私が今後大切にしていきたい、そして皆様にお伝えしたいことは「課題は解くものではなく形成するもの」ということです。

世の中には課題がたくさん溢れていますが、解決する価値がある課題は一部分のみだったり、まだ顕在化していなかったりします。

解決する価値のない課題を、かっこいい手法を考えて検証を重ねて見事に解決したところで誰も喜びません。汗水流した達成感だけ残るので本人はいい気分だし、かえってそのせいで価値を認めない他人を馬鹿だと罵るかもしれません

大切なのは解決する価値のある課題を見極めること。または、まだ誰も気づいていない課題を見つけ出して形成することです。


いま私は京都に戻って少数部隊の研究所でアシスタントマネージャーを勤めています。大好きな京都で楽しい楽しい研究に打ち込む事になりますが、メンバーも含めてこの教訓を忘れずにいようと思います。

最後に、この学びを共有することで皆様の活動に役立てられれば幸いです。